「臨床医学のためのウェーブレット解析」 第7章 「ウェーブレット解析からみた心拍変動」・追補



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 心拍変動の周波数解析においては,0.04〜0.15HzのLF成分と0.15Hz以上の周波数のHF成分が存在することが知られている。
HF成分は,副交感神経である迷走神経の活動の指標であり,LH成分は,交感神経と副交感神経に支配されるとされている。
心不全の患者では,交感神経が優位であり,また,心房細動などの不整脈の出現の前には,自律神経のバランスが崩れ,交感神経が優位になるとされる。  心拍変動解析は,自律神経機能を評価する重要な検査方法として,位置付けられている。

 「臨床医学のためのウェーブレット解析」 第7章 「ウェーブレット解析からみた心拍変動」にて,仰臥位3分間,立位3分間の体位変換による心電図のR-R間隔のデータに関しての,離散ウェーブレット解析,ウェーブレット・パケット解析および,情報量をコストとする最良基底アルゴリズム,最大エントロピー法,AIC,MDLなどの情報量を指標とするシステム同定などの解析に関して論じた。
 その後,新らたなデータを得て,同様の解析を施行し,興味深い知見を得たので,逐次,この頁で述べる。

RR29VorNach.txt 29歳,女性の場合


 本データは,29歳の正常者(女性)から得られた仰臥位3分間,立位3分間のR-R間隔のデータである。

 図は各々,最大エントロピー法での,仰臥位3分間と立位3分間のグラフである。図の上のグラフの仰臥位で見られた,0.25Hz付近のピークは,図の下のグラフの立位では,消失している。挿入されたマジェンタ色のグラフは,AICの値をプロットしたものである。横軸には,自己回帰モデルにおける次数を,縦軸には,AICの値をとっている。AICを最少にする次数は,いずれも4である。
AICが最少となる自己回帰係数,MDL,FPE,CATなどの情報は,ソフトウェア「ウェーブレット解析・スペクトル解析 MEM」のテキスト・エリアに書き出される。  FFTでは,データ数が少ないため,良い解像度は,得られず,0.25Hz付近のピークは,見られない。
尚,図の下のグラフでは,2/239 Hz付近にのみ,明らかなピークを認める。 これは,この項の最後に示すウェーブレット・パケット解析のDuabechies20による最大分解レベル7でのクリスタルでは,w7,2若しくはw7,8で,体位変換後に,体位変換前に比して,振幅の増大が認められることから,この付近の周波数帯で,立位となることで,振幅が増大しているものと考えられる。
尚,0.25Hz付近の波は,HFに属し,副交感神経の指標とされる。詳細は,本文を参照。



連続ウェーブレット変換によるRR29VorNach.txtの解析


 次に,Morlet Power Level4,SubLebel16という条件で,連続ウェーブレット変換を試みた。
グラフの最上段は,元のデータを表示する。ピンクの矢印は,仰臥位から立位への体位変換を表わす。
下の図の縦軸は周波数,横軸は,時間を表わす。図の右には,周波数を表示してある。仰臥位で,0.25Hz付近のピークは,立位とともに,消失した。


ウェーブレット・パケット解析によるRR29VorNach.txtの解析


 ウェーブレット・パケット解析をDaubechies20をフィルターとし,レベル3で,分解したのが,下の図である。
w3,4クリスタルで,体位変換を期に,Power(振幅)の減少が見られる。w3,3でも,同様な傾向を認める。


w3,4クリスタルのコスト関数とその差分に関する検討


 w3,4クリスタルで,Gauss-Markovエントロピー(GM)および,理論次元(TD),パワー(Power)の情報コスト関数とその差分(difGM,difTD,difPower)について,その変化を観察した。
ピンクの矢印は,体位変換点を示す。PowerとTDで,変化しているが,GMもわずかに変化しているかも知れない。
 元のデータのコスト関数とその差分のグラフを下に,コントロールとして示した。元のデータでも,Powerは,体位変換点で,減少するが,TD,GMに大きな変化は,見られない。


元のデータのコスト関数とその差分

w3,4クリスタルのコスト関数とその差分を元のデータと比較するために提示した。
元のデータでも,Powerは,体位変換点で,減少するが,TD,GMに大きな変化は,見られない。


マザー・ウェーブレットを,Spline1-5へ変更

マザー・ウェーブレットを,Spline1-5へ変更しても,ウェーブレット・パケット解析で,w3,4クリスタルの体位変換を境に,振幅の著しい低下が,見られた。 w3,4クリスタルのコスト関数とその差分のグラフを下に示す。体位変換を境に,Powerの増加は,ほとんど,見られず,GM,TDも増加率が低下する。
Spline1-5の際でも,元のデータでは,Powerの低下はみられたが,TD,GMの コスト関数の傾きに,大きな変化は,見られなかった。


Spline1-5でのウェーブレット・パケット解析 レベル3


RR29VorNach.txtのSpline1-5でのウェーブレット・パケット解析,レベル3での グラフである。
w3,4クリスタルで,体位変換を挟んで,振幅の減少が著明である。同様の所見は,Spline2-8をマザー・ウェーブレットとしても得られる。



ウェーブレット・パケット解析のDuabechies20による最大分解レベル7

最初に提示した最大エントロピー法の図の下のグラフ(立位)では,2/239 Hz付近にのみ,明らかなピークを認めた。これは,ウェーブレット・パケット解析のDuabechies20による最大分解レベル7でのクリスタルでは,w7,2,若しくは,w7,8で,体位変換後に,体位変換前に比して,振幅の増大が認められることから,この付近の周波数帯において,立位となることで,振幅が増大しているものと考えられる。


RR52VorNach.txt 52歳,男性のケース


 本データは,52歳の正常者(男性)から得られた仰臥位3分間,立位3分間のR-R間隔のデータである。

 図は各々,最大エントロピー法での,仰臥位3分間と立位3分間のグラフである。図の上のグラフの仰臥位で見られた,0.25Hz付近のピークは,図の下のグラフの立位でも,他の2例と異なり,消失しない。やや振幅が低くなり,低周波側に,シフトしている。挿入されたマジェンタ色のグラフは,AICの値をプロットしたものである。AICを最少にする次数は,いずれも5である。



連続ウェーブレット変換によるRR52VorNach.txtの解析


 次に,Morlet Power Level4,SubLebel16という条件で,連続ウェーブレット変換を試みた。
グラフの最上段は,元のデータを表示する。矢印は,仰臥位から立位への体位変換を表わす。
下の図の縦軸は周波数,横軸は,時間を表わす。図の右には,周波数を表示してある。仰臥位で,0.25Hz付近のピークは,他の2例と異なり立位でも,消失しない。


ウェーブレット・パケット解析(Daub20)によるRR52VorNach.txtの解析


 ウェーブレット・パケット解析をDaubechies20をフィルターとし,レベル3で,分解したのが,下の図である。
w3,4クリスタルでは,他の2例にみられた体位変換を期に,Power(振幅)の著明な減少は,認められない。


ウェーブレット・パケット解析(Spline1-5)によるRR52VorNach.txtの解析


 ウェーブレット・パケット解析をSpline1-5をフィルターとし,レベル3で,分解し,そのw3,4クリスタルのコスト関数とその差分について示したのが,下の図である。
w3,4クリスタルでは,体位変換を期に,Power(振幅)の減少を認めるが,RR29VorNach.txtほど,著明ではない。TDおよびGMコスト関数も,体位変換を期に,わずかに変化する。


多重解像度解析(Spline1-5)によるRR52VorNach.txtの解析


 多重解像度解析をSpline1-5をフィルターとし,最大分解レベル5で,分解した。g5では,矢印で示した体位変換を挟んで,Power(振幅)の著明な低下がみられる。


Spline1-5,w5,1クリスタルのコスト関数とその差分に関する検討


 w5,1クリスタルで,Gauss-Markovエントロピー(GM)および,理論次元(TD),パワー(Power)の情報コスト関数とその差分(difGM,difTD,difPower)について,Spline1-5をmother waveletとして,その変化を観察した。
体位変換点を境に,PowerとTD,GMで,変化している。
w5,1クリスタルは,上の多重解像度解析のg5に相当する。
 元のデータのコスト関数とその差分のグラフを下に,コントロールとして示した。元のデータでも,Power,TD,GMに大きな変化は,見られない。


Spline1-5,元のデータのコスト関数とその差分に関する検討


 コントロールに,元のデータで,Gauss-Markovエントロピー(GM)および,理論次元(TD),パワー(Power)の情報コスト関数とその差分(difGM,difTD,difPower)について,Spline1-5をmother waveletとして,その変化を観察した。
体位変換点を境として,Power,TD,GMに大きな変化は,見られない。


 本症例では,(52歳の男性)体位変換時のR-R間隔のデータでは,最大エントロピー法でも,連続ウェーブレット変換でも,立位においては,他の2例にみられた,0.25Hz付近の周波数の低下が見られなかった。
従って,Daubechies20をフィルタとしたウェーブレット・パケット解析で,w2,2若しくは,w3,4で,体位変換を境とした大きな変化を見出すことが出来なかった。
 しかし,Spline1-5,および,Spline2-8をマザー・ウェーブレットとすると,分解レベル3で,w3,4クリスタルにおいて, ウェーブレット・パケット解析で,体位変換を境に,Power,TDとも低下しているグラフが得られている。また,多重解像度解析では,g5が,体位変換を境に,Powerが減少した。  ウェーブレット・パケット解析のw5,1クリスタル(g5のことである。)で,TD,GM,Powerとも,体位変換により,変化することが,観察されている。この件に関しては,更に,症例を重ねて,検討,報告する予定である。

連続ウェーブレット変換(Gabor2 Power)による位相の変化


Gabor2 Powerを,mother waveletとして,continuous wavelet transformationにより,位相の変化を観察した。
下のグラフは,各々,本著と追補のcaseで述べた,49歳の女性,29歳の女性,52歳男性の体位変換前後でのR-R間隔について,ウェーブレット変換にて,位相の変化を観たものである。
いずれも,体位変換後に,位相は,激しく変化している。

RR49VorNach.txt 49歳,女性の場合



RR29VorNach.txt 29歳,女性の場合



RR52VorNach.txt 52歳,男性の場合



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